ノックをした。


「どうした?」
いつもはこんな感じでドアの隙間から顔を出して尋ねて、決して中には入れてくれない。

別にもう子供じゃないんだし、そんな荒らしたりなんてしない。
でも仕事の物があるからと頑なに拒否される。



でも今日くらいいいでしょ?、と問うたのは今朝のことだ。



Happy Birthday To You.
「はぁ?」 「今日は何の日?」 「お前の、誕生日」 「そーよ!私の誕生日!」 「・・・」 「私の誕生日なんだから私の・・・」 「私の・・・?」 「私の日よ!」 「はぁ〜。ったく分かったよ。お前の好きなようにすればいい。」 ざっとこんなもんだわ。 イザークに言うことを聞かせるなんて朝飯前よ! 「入っていいぞ。」 そんな返答を聞くよりも先にドアを開ける。 そして部屋の中にずかずかと入る。 いつもは中々入れてくれない広いイザークの部屋に。 壁一面の本棚には文献がびっちり並んでいる。 入りきらない本は床に重ねられていている。 ものすごい数だ。 これと屋根裏部屋にある本を足したら一体何冊になるのだろう。 数百冊はくだらないだろう。 よくこれだけ蓄えたものだわ。 あまりの量の多さに思わず圧倒された。 そして本から視線を移す。 私に背を向けて窓の傍に立つこの部屋の主に。 「イザーク♪」 「ちっ、これで気が済んだか?」 「ん〜なんかあんまり面白くないね。」 「だから言わんこっちゃない。」 やれやれといった調子で私の顔を見る。 「イザークって本当に民俗学が好きなのね。」 「ん?まあな。」 「難しい本ばっか。」 「まあ、お前が理解できるような本はないな。」 「ふん、だ。」 わざと大げさに頬を膨らましてみる。 「・・・っふ、ははは・・・。」 「何よ!笑うことはないじゃない!!」 「いや、だってお前、その顔・・・ふっ、はははは・・・」 「もー!イザークの馬鹿!」 「あはははは・・・!」 「私、この部屋から出て行かないんだから!」 頬を膨らましたままごろんと部屋の真ん中に寝っ転がる。 大きな窓から差し込む光でできた陽だまりの中に。 少し眩しいが気持ちいい。 「イザークなんてだぁーいっ嫌いなんだから!」 「フーレーイ。」 「ふんっ。」 そっぽを向く。 「ったく、ホントにしょうがないな。」 イザークは私の傍にどかっと腰を下ろした。 「えっ?」 思わずイザークの顔を見る。 ちゅっ 振り向きざまにおでこにキスされる。 「イザーク?」 驚いてイザークの顔をまじまじと見る。 「あっ・・・」 イザークは自分がしたことに驚いているようだ。 顔がみるみるうちに真っ赤になる。 「くすくすっ・・・」 「あ!お前、今、笑ったな!」 「だって!イザーク、その顔・・・ぷっ・・・あははは・・・」 「お前・・・」 「あはははは・・・!」 「はぁ〜」 イザークは大きくため息をついてフレイの横に転がった。 愛しい横顔。 いつでも私のことを考えて、想ってくれている愛しい人。 そして、これからもずっと、永遠に一緒にいたい人。 「イザーク大好き!」 お返しとばかりにイザークのおでこにキスをおとす。 耳まで真っ赤に染まっちゃってイザーク可愛い。 可愛いなんていったら怒られるだろうけど赤ちゃんが皆可愛いように無条件に可愛い。 「ねぇ、イザーク。」 「何だ?」 「歌って?」 「何を?」 「Happy Birthdayの歌。」 イザークが低い声で歌ってくれる。 小さい頃はいつもパパが歌ってくれた歌を。 いつも最後の方は私も一緒に歌っていたっけ。 私もイザークの声に合わせて歌う。 Happy Birthday To You 〜♪ いつの間にか寝てしまったようだ。 「ん・・・今何時・・・って、あー!もう夕方っ!」 起きようとするとイザークに抱きしめられていて起きられない。 「イザーク!いい加減に起きてよ!」 「う・・・ううん・・・あれ・・・俺・・・」 「寝ちゃったのよ、私たち。」 「そうか・・・って、うわっ!」 完全に覚醒して自分の今の状態を知ってイザークは慌てて手を引っ込めた。 「痛っ」 「痛ったー!」 硬い所に寝ていたせいか背中が異常に痛い。 「ふふっ・・・」 「ははっ・・・」 二人で顔を見合わせて笑い合う。 こんな誕生日は初めてだ。 もっと色んなお願いを聞いてもらいたかったのに。 でもこんなに幸せな気分の誕生日は初めてかもしれない。 イザークと一緒に過ごす誕生日。 イザークの腕に抱きしめられて眠る誕生日。 「今日は、お前の願いあんまり聞いてあげられなくて、その、悪かったな。」 貴方はすまなそうにそう言ったけど、 貴方と一緒にいることが私の一番の願い。 貴方とずっと一緒に過ごすことが私の本当の願い。
Happy Birthday To You. Happy Birthday To Fllay.

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