「ミリィ聞いてよ!なんかねこの頃お腹の調子が悪くてさ気持ち悪くて堪んないの〜なんかいい薬ない?」
ミリィは隣の家に住んでいてフレイの良きアドバイザーだ。
「薬、薬ねぇ…どんな気持ち悪さなの?」
「なんか吐き気がするの。
今まで吐き気とかそんな頻繁に感じたことないから良く分からなくて…」
「…ねぇ、まさかとは思うんだけどそれって、妊娠だったりしない?」
「え、まさか…そんな訳ないわよ!一応ちゃんとやってたはずだし…」
「本当にそんなこと言い切れるの〜?」
「えっ…そういえば一回だけあるかも…でも一回だけよ!」
「まあ一応検査してみなさいって!」
「でも…」
「ディアッカの知り合いにいいお医者さんがいるらしいから明日にでもいってみましょ。私も付いてってあげるから!」
「でも…」
「まあ物は試しよ!明日行きましょ!!」
フレイはミリィに押し切られる形で行く事になってしまった。
「妊娠してますね」
「やったじゃないフレイ!!」
「そ、そんな…本当ですか?」
「妊娠ニヶ月て所ですかね」
「…そうですか…」
「…どうしたのフレイ全然嬉しそうじゃないじゃない?」
病院から出るとミリィは不思議そうにフレイに聞いた。
「イザークが…子供の事喜んでくれるかなって心配でさ…」
「喜ばない訳がないじゃない!もっと自信を持って!言うのは勇気がいると思うけどイザークなら絶対に大丈夫よ!」
「ディアッカはさ、そういうことどうなの?」
「うーん。あいつは子供欲しい子供欲しいって毎日の様に言ってくるけど…
イザークはさ、ディアッカみたいにオープンに自分の感情外にださないじゃん?
だから分かりにくいことだってあるでしょ?でも今回はきっと凄い喜ぶと思うよ。
迷惑とかそんなわけないじゃない!!ちゃんと自信もって!!」
「そうかな…」
「それにコーディネイターの出生率って低いでしょ?きっと皆喜んでくれるに違いないわ!!」
「ありがと、ミリィ。」
しかしフレイはまだ不安な気持ちを消せないでいた。
「じゃ、頑張るのよ!!」
ミリィに玄関の所まで送ってもらってフレイは背中を押されるようにして門を開けた。
いつもはなんとも感じない玄関へ続く小道が、今日はとても短く感じる。
「ただいま〜」
「おい、お前今までどこ行ってたんだよ!」
いきなりイザークは不機嫌そうな顔で出て来た。
「あんたなんでこんなに帰りが早いのよ!」
「あ?俺が早く帰ってきちゃ悪いのか?」
「そんな事言ってないじゃない!」
「ったく人がせっかく早く帰って来たってのに家にいないわ帰って来たら帰って来たで文句は垂れるは散々だな。」
「な、何よ!あんたがいけないんでしょ!」
「でお前は今までどこに行ってたんだよ?」
「どこって…どこだっていいじゃない!」
「んだと〜お前人に言えないような所にいってたのかよ!」
「そ、そんな事ないけど…」
「じゃあ言ってみろよ」
「うっ…」
「言えないのか?」
「何よ…人の気持ちも知らないで…イザークの馬鹿っ!大っ嫌い!!」
「おいっ!ちょっと待てよ!!」
バン!フレイは自室に閉じこもってしまった。
「っーおいっ!開けろよ!」
「嫌ったら嫌!」
「ったく何なんだよ一体!」
「イザークなんて大っ嫌いなんだから!」
プルルル…
「くそっこんな時に電話かよっ!」
ガチャッ
「もしもし?」
「あっもしもし?イザークかしら?」
「ミリアリアか…すまないが今ちょっと取り込み中だから後にしてくれないか?」
「あっ、という事はフレイから聞いたのね!これから大変になるかもしれないけど二人で頑張るのよ〜」
「何をだ?」
「あら?まだ聞いてないの?」
「だから何をだ?」
「フレイが…妊娠したって話…」
「に、妊娠だと〜!」
「や、やばっ。ま、まあそーゆう事だから…」
「おいちょっと待て!」
ガチャッツーツー
「くそっ」
「おいフレイ好い加減出てきてくれ。きちんと話をしたいんだ。」
「話…私だって話さなきゃいけない事あるのにイザークは怒ってばっかりで怖いんだもん…」
「もう怒ったりしないから出て来てくれ」
ガチャッ
「…イザーク…あの…私…」
「もうその話は聞いた…良かったじゃないか!
これからは体を大事にしなければ!
おいほら早く着替えて!汗かいたままじゃ風邪ひくぞ!」
「…私イザークに言うのが怖かったの…もし拒絶されたらどうしようって…
今の生活が壊れちゃったらどうしようって…
でも私産んでもいいの?赤ちゃん産んでもいいの?」
「勿論だ!何処に断るわけがある!ったくそんな事を気にしてたのか…
俺はお前に俺との子を産んでもらいたいんだよ!」
「イザーク…嬉しい…」
「くそっ泣くな!」
「だって、ヒック、嬉し、ヒック、んだもん」
「一生お前を守ると言っただろうが!」
イザークはきつくフレイを抱きしめた。
「イザーク、私、幸せよ」
「俺もだ」
「この子と…幸せになりましょうね」
「あぁ勿論だ!」
イザークはきつくフレイを抱きしめた。
部屋が夕焼けで紅く染められていく。
フレイは今だかつて感じたことのない位沢山の幸せを大事に大事に噛み締めていた。
お腹に宿っている小さな命をどんなことがあっても守っていかなければいけないという強い責任感が、
今まで人を頼りにしながら生きてきた少女の心の殻を突き破り、ひしひしと、しかしとても心地よく感じられた。
これから決してどんな苦難に遭おうとも二人でなら乗り越えていける、
そんな思いが何処からか力強く湧いてくるのを感じながら、
イザークは日が沈み、部屋が暗闇に閉ざされるまで優しく、だが力強くフレイのことを抱きしめていた。