ある晴れた昼下がりイザークとフレイは有名なショッピングセンターに来ていた。
フレイが着る服を買うためにイザークは反強制的に連れ回されていたのだ。
「イザークあれ、欲し〜い!」
「馬〜鹿、お前にあんな服似合うわけないだろ。(あんな背中の開いた服着せられるか!!)」
「あれがいいの!あれが欲しい!!」
フレイはめげずに駄々をこねる。
「似合わない服買ってどうする!しかもあんな服着て行く所なんてないだろ!!」
フレイはにんまり笑って言った。
「イザーク言ってたでしょ?アスランの誕生パーティーに着て行くのよ♪」
「あんな男のためにこんな服着て行く必要ない!ほら、これなんかどうだ?こっちにしろ!」
「何でこんな修道女みたいな服着なきゃいけないのよ!絶対いや!!」
尚もフレイは駄々をこねる。
「ならいい、もう勝手にしろっ!!」
遂にイザークはキレてフレイを置いて歩き出した。
そのイザークに追いすがってフレイは怒鳴った。
「ちょっと待ちなさいよっ!このおかっぱ!!」
「んだと、このアマ!似合わない物は似合わないんだよっ!」
「酷い、イザークなんて死んじゃえ!」
調度その時シンとステラもウインドウショッピングをしていた。
「ステラ、どんな服着て行く?」
「ステラ何でもいい。」
「じゃあ、こ、これなんてど、どうかな?」
シンはステラにちょっと胸元が開き気味の緑色のドレスを怖ず怖ずと差し出した。
「うん。シンが言うなら。」
「じゃあ試着してみよっか?」
「試着?」
「あ、ああ試しに着ようって事で…そのっ、ステラに合うかどうか分からないし…」
「じゃあ着る。シンも手伝って。」
「え?いや。ステラ、それはちょっと…」
シンは少しの期待を胸に抱きながら、少年らしくはにかみながら赤くなり下を向いた。
「で、でもステラがそう言うなら…」
鼓動は極限まで速まり、これ以上できないくらい頬を赤く染めてシンは小さな声で言った。
「何かお探しですか?」
突然後ろから声をかけられ、シンは驚いて宙に浮きそうになった。
振り向くと人の良さそうな笑みをたたえた女性の店員が後ろに立っていた。
「あ、あの、そのっ」
焦ったシンは上手く喋れない。
「ステラこれ着たい。」
ステラが店員に服を差し出す。
シンは心の中でステラに礼を言いつつも少し残念な気持ちを隠せなかった。
ステラが試着室で服を店員に手伝って貰いながら着ている間、
シンはやることがなくブラブラ店内を歩いていた。
女物の服がごっそりある中でシンには手が出せないような高級な服もあった。
「うわーすげー高い。でもステラこういうの似合うだろーな。」
などと想像しながら見て回っていると店内に二人の若い男女、それもとびきりの美男美女が入ってきた。
女の方はとても楽しそうに服を見ているのだが、
男の方は心底ウンザリした様な顔で眉間にしわを寄せながら突っ立っていた。
「これどうかな?」
「良いんじゃないか?それにしろよ。」
彼らはろくに値段も確認しないで高級そうな服をどんどんかごに詰め込んでいく。
「うわっ、また入れたよ…余程の金持ちなのかな…」
シンが驚嘆して見ているとステラが試着室から出てきた。
「シーン、ステラ着てみた。」
ステラがその服を着ると、マネキンが着ていた時よりも全然その服の良さを引き出していた。
「に、似合うよ、ステラ。ホント、その、き、き、き」
「ホント、お綺麗ですよね〜」
シンが振り向くとまたもやあの店員がにこにこと笑いながら立っていた。
「じゃあお決まりになったらまたお声かけてくださいね。」
そして彼女はまたニコニコと笑いながら他の客の所へ去っていった。
「何なんだよっ一体あの店員は!せっかく俺が…」
「俺が?」
「いやっ、何でもないよ。(い、今の声に出てたのか!?)」
「ふぅん。シン、これでいいかな?」
「うん、いいと思うよ。ステラ本当にき、き…」
シンが言いかけているのを遮って、今度は物凄い怒鳴り声が聞こえてきた。
「何だよ、一体…」
振り向くとさっきのカップルが口論を始めていた。
「ったく、何なんだよ、皆してっ!!」
シンは呆れてステラの方を見た。
その時だった。
今思い出してもどうしてさっさと買い物を終わらせなかったのかと悔やまれる。
言ってはならない一言をあの女は言い放ったのだ。
「酷い、イザークなんて死んじゃえ!」
「んだと、この…」
その後の口論はもはやシンの耳には届いていなかった。
顔の血の気が一瞬にしてひいていくのが分かった。
「死んじゃう…、それはだめ…。怖い。」
「す、ステ…」
「イヤー!!死ぬのいやぁぁぁ〜!!!」
バキッ、ドスッ、ビリッ。
「ちょ、ステラッ!!」
シンは必死にステラを止めようとするが、混乱したステラは止まらず、周りの衣類を破壊し続けた。
「ステラ、ステラッ!!」
「いやぁー!!」
こちらの異変に気がついたカップルも一時休戦して何事かと目を剥いた。
やっとのことでステラを捕まえたシンは、ステラを抱きしめた。
「もう大丈夫、君は死なない。」
びくりとステラの体が震え、静かに泣き出してしまった。
「ひっく、ひっく。」
「もう大丈夫。君は俺が守るって言ったじゃないか。」
ステラが大人しくなるまで抱き続け、シンはカップルの方を向いて怒鳴りつけた。
「あんた達、何なんだよ一体!!死ねとか簡単に言うなよ!!喧嘩するならどこか他でやってくれ!!」
「なんだとぉ!」
男の方は青筋を立ててシンの事を睨みつけるが、女の方はシンにすまなそうな顔をして近寄ってきた。
「ホント、ごめんなさいね。私なんも考えなしに言ってて…その子大丈夫?」
心配そうにステラの顔を覗き込む。
「まあ、もう平気だと思うけど…でもこれ、どうすればいいんだよ…」
困り果てて、シンは荒れた店内を見渡す。
「占めて326万6800円でーす。」
忍者のごとくさっきの店員が後ろに現れる。
「イザーク、これ私達のせいになるかな?」
女は後ずさりして後ろの男に聞く。
「何言って!?あんたたちがいけないに決まってるだろ!!」
「でも、その証拠はないよな。」
「ふざけ…」
「だよね〜関係ないよね、私達。じゃ、この辺で家帰ろっか?」
「ああ、そうしよう。今日はもう疲れたしな。」
「おい、ちょっと…」
シンが止めるのも聞かず二人はどんどん出口の方に向かって行ってしまう。
「おいって!」
ウィーン。
自動ドアが閉まるのをシンは絶望的な気分で見ていた。
おそるおそる後ろを振り向くと店員が満面の笑み(少し口の辺りがひくひくしてるようだが)を湛えていた。
「326万6800円になります。」
気がつくと周りを他の定員に囲まれて、逃げ場が無くなっていた。
シンは冷汗を垂らしながらおそるおそる聞いてみた。
「払わないとだめですよね?」
誰もが当たり前だというように深く頷く。
「ふふふ、そうですよね…」
シンの乾いた笑い声が店内で反響する。
「ちくしょー!!!!」
その後シンは勿論400回払いのローンを組まされ、
友人、艦のクルーにお金を借りに走ったことは言うまでもない。
そして、シンはまたアスランの誕生日パーティーでそのカップルと再び相見えたのであった…。