昔、アルスター家とジュール家という二つの名家があった。
両家の争いは長きに渡り続き、互いに憎みあうほどになった。
それは使用人にまで及び、両家の者が街で出会うたびに、
鍔迫り合いが起こり、時には流血事件にさえ発展した。
こうして度々起こる喧嘩により街の平和は度々破られていた。
ある時アルスター家のジョージ・アルスターが仮面舞踏会を開いた。
そこには大勢の貴族が招かれ、ジュール家以外なら誰でも歓迎された。
愛と死の間で 1
「はぁ?アルスター家のパーティーに出ろだと!?」
「だってよ〜お前が好きなラクス・クラインも招かれたらしいぜ。」
「だが・・・アルスター家と我がジュール家の確執はお前も知ってるだろ。」
「ああ、でもよ、他の女を見ることでお前も考えを変えてくれるかもしれないしよ。」
「俺の想いはそんなに簡単に変えられん。」
「まあ、まあ、行ってみようぜ!」
イザークはラクスに恋をしていた。
そのピンク色の可愛らしい髪も、
優しい、慈愛に満ちた微笑みも、
唄うような美しい声も、
女性らしい振る舞いも、
全てが好きだった。
しかし、ラクスにはもうキラという婚約者がいてイザークの求婚はことごとく断られていた。
ディアッカや他の友人はイザークのことを心配してもうラクスの事は諦めるように度々言っていた。
しかし、イザークは全く聞く耳を持たなかった。
そこでイザークに仮面舞踏会に行って好きな女性を見つけさせようとしたのだ。
ジョージは仮面を被ったイザーク、ディアッカ、アスラン、ニコルを喜んで迎え入れた。
イザークはまず、ラクスを探した。
なかなか見つからず人を掻き分けて進むと、その中に並外れて美しい女性を見つけた。
燃えるような紅い髪。
雪のように白い肌。
抜群のプロポーション。
例え仮面を被っていても滲み出てくるその美しさにイザークは思わず息を呑んだ。
横にいるディアッカに思わず声を掛ける。
「美しい髪の女だな、お前、誰か知ってるか。」
「いや〜俺も知らねーや。初めて見るぜ。」
その時その女性の後ろにラクスの姿が見えた。
「ラク・・・」
思わず声を掛けようとしたイザークの動きが途中で止まった。
ディアッカが不審に思って見るとラクスの隣にはキラの姿が見えた。
二人は顔を見合わせて微笑みながら話している所だった。
そして次の瞬間、おもむろにラクスがキラのほっぺにキスをした。
キラは顔を真っ赤にしていたが嫌がっているようではなかった。
そして今度はキラからラクスにキスをする。
そんな仲睦まじい所を見せ付けられてイザークは固まってしまった。
「お〜い!イザーク!」
ディアッカが耳元で呼ぶ声も聞こえないようで、
ゆさゆさと揺さぶられても反応がなかった。
「ったく、だから止めろっていったのによ・・・」
呆れた、しかし、憐れみを含んだ顔でディアッカはイザークを見た。
「少し休んでくる・・・」
数分間の沈黙の後で青ざめた顔でそう言うとイザークは壁際に向かっていった。
「イザーク・・・」
去っていく彼の背中にかけてやる言葉がディアッカには見つからなかった。
―何なんだ、一体!今日は本当に最悪だ!―
失恋の痛みがじわじわとやって来る。
「ちっ・・・」
イザークがそのまま壁に寄りかかっていると傍にさっきの女性を見つけた。
―本当に燃えるような色の髪だな・・・―
思わず見とれているとこっちをちらりと見たその女性はこっちにつかつかと向かって来る。
―まさか、じろじろ見たせいか!?―
イザークが焦っているとその女性はただイザークの隣に寄りかかっただけだった。
―なんだ・・・ただ休みに来ただけか・・・―
安心したのもつかの間、いきなり彼女が話しかけてきた。
「退屈よね、こんなパーティー。」
「・・・は?」
「こんな仮面舞踏会なんて本当、退屈。」
「・・・・・・。」
「言い寄ってくる男の相手するの、大変なんだから。」
「それは、貴女が素敵だから、皆好きになるのだろう。」
「・・・・・・ありがと。」
一瞬驚いたようにイザークのほうを向いて、フレイは礼を言った。
「でも、本当に私を好きな人なんていないわ。」
「なんで、そう思う?」
「だって、本当の私を見てくれる人なんていないもの。」
「・・・本当の私・・・。」
「そう。皆うちの財産目当てだったり、見かけだけしか見てくれないんだもの。
今日だってそう。皆本当の私を好きなわけじゃないんだわ。」
淋しそうな微笑が口元に浮かぶ。
「だったら、俺と一緒に踊らないか。」
「えっ!?」
「俺は貴女が誰か知らない。
それに仮面を被ってるから貴女の顔を見ることができない。」
「・・・・・・。」
「俺は、その・・・本当の貴女を好きになれる。」
「本当の私・・・。」
「そう、貴女の淋しさも共に愛することができる。」
「私の淋しさ・・・」
「だから・・・俺と一緒に踊らないか。」
跪いてイザークはすっと手を伸ばした。
少し迷った後、フレイは口元に微笑みを浮かべた。
「いいわ。一緒に踊りましょう。」
そしてその差し出された手に自分の手を重ねた。