「最後に観覧車乗りたいな。」
初めてのデートの終わり、辺りが段々と暗くなり始めた頃、ルナマリアはこんな事を言った。
指差す方向には大きな観覧車があった。
「ええっ、こっから遠いじゃん!」
「何言ってんのよ!遊園地にきたら締めはやっぱ観覧車よ!!」
「はあっ?いつ時代の話だよ!」
「いいから行くわよ!!」
嫌がるアウルの背中を押してルナマリアは観覧車の方に歩き始めた。
「ったく。」
しぶしぶアウルも歩き出した。
観覧車にはあまり人が並んでおらずすぐに乗ることができた。
「……」
向かい合って座ったが、二人とも少し気まずそうに互いにそっぽを向いていた。
沈黙が二人を包み込む。
密室空間の中で、初めてルナマリアからいい匂いがするのにアウルは気づいた。
シャンプーの匂いなのだろうか。
アウルの好きなハーブの香りだった。
観覧車が丁度真上に登りきろうとした時初めてルナマリアは口を開いた。
「うわー綺麗…」
眼下には美しいネオンの光が灯っている。
それを見ているルナマリアの瞳もきらきらと輝いていた。
「綺麗だ…」
ルナマリアの顔を見ながらつい思っていることを口に出してしまった。
「ホント、凄く綺麗!」
ルナマリアの横顔を見ていたアウルは勢い良くこちらを向いた彼女と目が合ってしまった。
アウルは気まずそうに頬を染めた。
「いや、その、ホント綺麗だよなぁ、ネオンが!!」
わざとらしく窓を眺めるアウルを見て、ルナマリアはきょとんとしていたがぷっと吹き出した。
「ふふっ。」
「何がおかしいんだよっ!!」
「だって、アウルおかしっ!!」
「はぁっ?」
「なーに顔赤らめてんのよっ!」
「赤らめてなんていねぇよっ!!」
「ふふふっ。」
「ふんっ!」
腕を組みそっぽを向いてしまったアウルにルナマリアは微笑みかけた。
「まあ、なんにしてもありがとっ!!」
突然真面目に声をかけてきたルナマリアに驚きアウルはまじまじと彼女の顔を見た。
「なんだよ、いきなり…」
「今日、アウルと過ごせて凄く楽しかった。」
にこりと笑いかけるルナマリアをまぶしそうに見つめ、アウルはポツリと言った。
「俺だって…楽しかったよ。」
二人は見つめあった。
−ちょっ、これっていい感じだよな…やっぱこういう時にキ、キ、キスとかしたり…−
「何してんのよ、早く降りるわよっ!!」
腕を引っ張られてアウルは観覧車から引きずり降ろされた。
アウルが考え込んでいるうちに観覧車は地上に着いていたのだ。
急に現実の世界に戻されて少し残念に思いつつもアウルはほっとした。
−難しいよな、色々と…−
ため息をついているアウルを見ながらルナマリアはこんな事を思っていた。
−アウル、さっき何考えていたんだろ?なんか一人でにやにやしちゃったりして…
にしては今は今でため息なんてついちゃってるし…本当は楽しくなんてなかったのかな…−
不安になっているルナマリアを尻目に、アウルは一大決心をしていた。
−よしっ!!−
「ルナ、帰るぞ!」
「きゃっ。」
アウルはルナマリアの手を掴み歩き出した。
ルナマリアは驚いてアウルの顔を見ると真っ赤になっている。
まだ一度も触れたことのなかったルナマリアの手は女性らしくすべすべとしていた。
ドキドキドキドキ
心臓がこれ以上早く打てない位早く打っていた。
ぎゅっ
ルナマリアはアウルの意外とがっちりした手を握り返した。
アウルは一瞬驚いたように力を緩めたが、またしっかりと握り返してくれた。
二人は一瞬見つめ合ってまたすっかり暗くなった道を歩き出した。