アークエンジェルでのある夜のこと。
ノイマンは目を覚まして水を飲みに食堂へ向かって歩いていた。
今日もザフトと激しい戦闘があり、ほぼ大半のクルーが疲れて寝静まっていた。
そんな時だった。
がさがさ
普段はこんな時間に誰もいないはずの料理場からこんな音が聞こえてきたのだ。
−こんな時間に誰だろう?−
不審に思ったノイマンは音を立てないように静かに近付いていった。
誰かが流しの前でごそごそ動いているのが見えた。
−ん?−
良く見るとそれはナタルだった。
−バジルール中尉が何故こんな時間にこんな所にいるのだ?−
良く見ると彼女は一生懸命何かを作ろうとしていた。
−何作ってるんだろ?−
気づかれないように覗き込もうとするがよく見えない。
ノイマンはこれでは埒が明かないので思い切って話しかけてみることにした。
「バジルール中尉」
声を聞くや否や、ナタルは勢い良く振り向いた。
相手がノイマンだと分かると悪戯が見つかってしまった子供のような顔をした。
「どうした?ノイマン曹長?」
ナタルは焦っているのを必死に隠しながら努めて冷静さを装った。
そしてさりげなく今作っている物を隠しながらノイマンの方に向き直った。
「あの、バジルール中尉こんな時間に何作ってるんですか?」
「それはだな…お、お前には関係ないだろっ!!」
焦ったナタルはつい思ってもいないキツイ事を言ってしまった。
「す、すいません。出すぎたマネをしました。」
ノイマンはナタルを怒らせてしまったことに驚き、何でそんなに怒るのか分からないままに謝った。
「中尉もお体に触りますからなるべく早くお休みになって下さい。」
そして、悲しそうな顔をしてそのまま自分の部屋に戻ろうと後ろを向いた。
「ノ、ノイマン。」
慌ててナタルはノイマンを呼び止めた。
「・・・悪かった。そ、その、お前、明日、もう今日か…誕生日だろ…?だから、その・・・」
「…?」
「お前に何か作ってあげようと…そのっ…」
ナタルは赤くなって俯いた。
「俺の、為にですか…?」
ノイマンは信じられないように聞き返した。
「まあ、部下の健康状態を管理するのは上官の務め…」
思わずノイマンは何の考えもなしにナタルのことを抱きしめた。
「ちょっ、ノイマン!?」
「バジルール中尉、いや、ナタル、ありがとう。」
「アーニィー・・・」
「久しぶりですね、俺のことそう呼んでくれたの。」
「あ…」
ナタルは顔を真っ赤にさせた。
そんなナタルが可愛くてノイマンはさらに抱きしめる腕に力を込めた。
「アーニィー、苦しっ」
「す、すいません。」
ノイマンは腕を緩めた。
そして、自分がとってしまった行動を考えて顔を赤らめた。
そんなノイマンを見てナタルはくすっと笑った。
「すみません!!上官にこんな…」
「いや、いいんだ。お前の腕の中はとても気持ちいい。」
「えっ?」
「い、いやなんでもないっ!!」
ナタルはくるりと後ろを向いてしまった。
「…それより、何を作って下さっていたのですか?」
「ラ、ラタトゥイユだ。」
「ラタトゥイユ?」
「ああ、ハーブを使った料理で疲労回復なんかに効くらしい。」
「そうなんですか・・・」
「う、うまく作れるか分からんが、できたらお前、食べてくれるか?」
「も、勿論です!!」
「そうか…」
「できあがるまでここでお待ちしてます。」
「いや、今日もまた忙しくなるだろうからお前はもう寝ろ。」
「ここにいます。」
「ったく・・・。うまくできる保証はないからな!!」
「大丈夫です。絶対に食べさせてもらいます!」
ノイマンとナタルは互いに微笑みあった。
しかし、ノイマンは知らない。
ナタルが間違って塩ではなく砂糖を大量に入れていたということを・・・。