「マジイザークって人使い荒いんだよな〜…
せっかく俺が色々フォローしてやってんのに。」
こんなことをイザークに聞かれたらどうなるか。
お前の助けなどいらないなんて殴りかかってくるだろう。
「はぁ〜」
盛大にため息をついて街を歩き回る。
昼近くになってきた通りは人通りが多く、歩きづらい。
ディアッカはそろそろ昼食でも取ろうかとぶらりと近くの店に入った。
小綺麗なカフェは人で溢れかえっていたが何とか隅の方にに一人分の席を見つけ座った。
「ふ〜…マジやってらんねー」
せっかくスイスまで遠路はるばるやって来たというのに仕事ばかりでは愚痴の一つも零したくなる。
「もうこのままふけちゃおうかな…」
出されたお手拭で手のみならず顔まで拭く。
「ったくよ〜」
ディアッカは我ながらおっさんになったのでは…と、ぞっとした。
―AAに乗ってたおっさんのこともうおっさんなんて言えなくなったかな…―
ふといつも陽気だった兄貴分のパイロットのことを思い出した。
イザークがあまりにも塞ぎ込んでいるのでこっちにも移ってきそうだ。
―やめ、やめ!―
ディアッカは暗い気持ちを振り払うように頭を振り、。何の気なしに壁の張り紙を見た。
東洋の神秘、日本文化写真展
〜日本舞踊、歌舞伎、雅楽、三味線など東洋の神秘、日本文化の写真展〜
「日本舞踊…行くしかねーな。
まあ仕事が終わってればイザークも何も言わないだろうし。」
ディアッカは勝手にそう思い込むと頼んだステーキに被りついた。
急いで昼食を済ませ、急いで今日のノルマを終えたディアッカは写真展の会場に辿り着いた。
「もう、こんな時間かよ〜…
ったくイザークの奴B、C両方とも回れなんてホント酷だよな…」
写真展終了時刻までは時間はある。
「じっくりみるぞ〜!!」
ディアッカは意気込んで受付に向かった。
中はあまり人もいなく、ディアッカはゆっくりじっくり時間をかけて見ることができた。
そろそろ終了時刻の6時を迎えようとしていた。
「じゃあ、そろそろ帰りますか…」
ディアッカは出口に向かった。
「すいません。宜しかったらここに感想などお書きください。」
係の女性に呼び止められ、ディアッカは声のした方を見た。
「あ〜別にいいですよ。」
その女性の顔を見てディアッカは思わず息を呑んだ。
「ミ…ミリィ…!」
「ディアッカじゃない!何でこんな所にいるのよ!!」
「ミリィ俺に会いに来てくれたんだね〜」
思わず抱きしめようと手を伸ばす。
「あんたのことはもう振ったでしょ!!」
ディアッカはぴしりと手を叩き落とされた。
「そんなこと言うなよ。俺はまだ諦めてないんだからな…!」
「あっそ。勝手にすれば。もう写真展終わりだから早く出てって。」
「〜〜〜っ!」
「ほらほら、行った行った。」
「ミ、ミリィ一人で帰るのはやっぱり危ないから俺、送ってくよ」
「はぁ?」
「俺、外で待ってるから。」
「ちょ、まだ6時じゃない!」
「待ってるからね〜!」
ディアッカは外に飛び出した。
「ったく、もう!」
ミリアリアは呆れたようにくすりと笑った。
戦後、ミリアリアとディアッカはしばらくは微妙な関係のままだった。
AAを降りた後はなかなか会うこともできなかったし、それにミリアリアはまだトールのことを想い続けていた。
ディアッカは隙あるごとにミリアリアへの告白をし続けていたが、
この間最後にあった時にミリアリアにはっきりとNOの返事をされてしまった。
タイミングの問題もあったのだろうが、
ディアッカが戦場カメラマンになるというミリアリアを必死に止めようとしたことにも原因はあるようだ。
その後は連絡も取りづらく、音信不通の状態になっていた。
それが、偶然こんなスイスの片田舎で会ってしまったのだ。
ディアッカは運命を感じずにはいられなかった。
「そうだよな、これって運命ってやつ?」
にやにやと笑いを噛み締めていると誰かが後ろをすぅっと通っていく。
振り向くとミリアリアがそ知らぬ顔をして通り過ぎていく。
「ミ、ミリアリア!ちょっと待った!!」
「何よ?誰も待っててなんて言ってないでしょ?」
「だーもー!一緒に夕飯食おうぜ、まだ食べてないだろ?」
「食べてないけど…」
「俺、奢るからさ。」
「本当にぃ?」
「本当さ!」
必死な顔をしているディアッカを見てミリアリアは思わず笑みをこぼした。
「やっと笑った。」
その顔を見てディアッカがほっとしたように言った。
「えっ?」
ミリアリアは驚いてディアッカの顔をまじまじと見る。
「笑顔。俺、ミリィの笑顔が一番好きだ。」
ディアッカが真顔で言うとミリアリアは少し顔を赤らめる。
「もう、ディアッカったら・・・」
少し頬を膨らませてディアッカを軽く睨む。
「ディアッカの奢りなんだから一番高いお店で食べるわよ!」
ミリアリアは踵を返すとすたすた歩いていく。
「おい、ミリィ、ちょっと待ってくれよ〜!」
ディアッカは自分の顔がにやけていくのを感じながら慌ててミリアリアを追いかけた。