ガタンガタン。
汽車の窓から見える景色は今まで居た田舎町から活気のある街の風景に段々と変わっていった。
「でね〜」
友人たちが楽しそうに話すのを上の空で聞きながらフレイは窓の外を見ていた。
「ちょっと〜フレイ!聞いてる?」
「ああ、ごめん。あんま聞いてなかった」
「んもぅ、フレイったら!今日行くお店決めてんだからちゃんと聞いててよ」
「あはっ、ごめーん!」
努めて無邪気に笑いながらフレイは会話の輪に加わった。
別に来たかったわけじゃないのに。
フレイは楽しそうに笑う彼女らに気づかれない様に静かにため息をついた。
年に1回行われる街を挙げてのバーゲンのためいつもの田舎から出て、
活気のある街に行くためフレイ達は汽車に乗っていた。
いつもは空いている汽車も心なしか混んでいるようだ。
「やっぱ、今年の新作のこのワンピは欲しいよね〜」
「あ、この新作の水着は?」
「かわいーこのポーチ!」
「ねぇ、フレイは何が欲しい?」
ぼーっと彼女たちを眺めていたフレイはいきなり話を振られて驚いた。
「えっとねぇ…こ、こんなのとか?」
「ねぇ、フレイ。…もしかして来たくなかった?」
「え?そ、そんなことないよ。」
フレイは焦って否定した。
「でも、さっきため息ついてたでしょ?」
「いや、別にそんなこと…(あちゃー、見られてたか…)」
「無理しなくていいんだよ、フレイ。」
皆が心配そうに言ってくる。
「全然大丈夫だってば!ただちょっと眠いだけ。」
「ホントに?」
「うん、勿論!!昨日興奮して遅くまで眠れなかったからさ〜。」
「全くフレイったら、幼稚園児じゃないんだからねっ!!」
彼女たちはまだ納得がいってないようだが、頑なに否定するフレイに押され引き下がる。
「でも、帰りたくなっちゃったらちゃんと言うのよ!」
フレイはそれに答えてにっこりと笑って見せた。
皆がほっとするのが分かる。
彼女たちの好意は嬉しかった。
だけど一人で考えに耽りたい時もある。
何か訳ありだということを彼女たちも気が付いていて、
心配して色々と世話を焼いてくれるが、時としてそれが煩わしい。
必死で堪えている何かが溢れ出しそうになる。
何かが弾けそうになる。
そして、無邪気に笑う彼女たちを見ると何かどうしようもなく不安になってくる。
記憶がない。
それが彼女を何よりも不安にするのだ。
自分の本当の両親は何処にいてどんな人なのだろう。
自分は今までにどんな子と友達になって、どんな生活を送って、
どんな人を好きになって、どんなことを考えていたのだろう。
全てが霧に包まれていて思い出せない。
誰を頼ったらいいのだろう。
誰に縋りつけばいいのだろう。
ハミルトン夫妻にはこれ以上心配をかけたくない。
友達にも話しにくい。
恋人と呼べるような人などいない。
誰にも、話せないじゃない…。
寂しいのだ、とてつもなく。
巨大な闇に飲み込まれそうになる。
助けて!
誰か助けて!
私を助けて!
私に気づいて!
でもそんな心の声に誰も気づいてくれなかった。
どんなに心の中で叫んでも、誰も気づいてくれなかった。
一人でいるときの孤独より、大勢の中にいるのにそれでも感じる孤独の方が、
フレイの心を切り刻んだ。
こうして今皆と一緒に汽車に乗っていても圧倒的な孤独を感じるのだ。
それこそ王子様か何かが現われでもしたらいいが、周りにはそんな人はいないし、
あいにくもう王子様が来てくれると信じられるような年でもない。
ようするに八方塞がりの状態だった。
どうすればいいいんだろう…。
またため息をつきそうになって慌てて誤魔化しながらフレイは友人達の顔を盗み見た。
皆幸せそうに笑っていた。
この子達の楽しみに水を差しちゃいけないわ。
どうせどうにもならないんだったら、これを楽しんじゃうとしましょうか!
「これなんて可愛いんじゃない?」
フレイは憂鬱を振り払うかのように頭を強く振って、友人達の会話に加わった。
皆驚いたようにフレイを見たが、いつものフレイに戻ったことを知り、にこにこ顔になった。
「こっちの方がいいんじゃない?」
「こっちのが色可愛いじゃん!」
「でもデザインがね〜」
フレイは談笑する友人たちを見て軽く微笑んだ。
大丈夫、私は一人なんかじゃない。
この孤独感もいつか消える。
だから頑張ろう。
止まることの知らない少女達の会話とフレイの新たな決心を乗せて、汽車は段々と街に近付いていた。