シャトルが地球にたどり着いたのは段々と辺りが暗くなり始める時だった。
「ふーやっと着いたぜ!」
ディアッカは誰よりも早くシャトルを飛び出し大きく伸びをした。
「話に聞いてたよりもずっと綺麗ですね。」
後から降りて来たシホはうっとりと夕日を眺めた。
「だな!!イザークも早く降りてこいよ!!」
まだシャトルから降りてこないイザークにディアッカは声をかけた。
「うるさい!声をかけずともすぐに行く!!」
先ほどの怒りがまだ収まらないのか、単に寝起きが悪いだけなのか、
イザークはすこぶる機嫌の悪そうな顔をしてシャトルから降りて来た。
(うへぇあいつまだ怒ってんのかよ…)
ディアッカは首を竦ませた。
「隊長、綺麗ですよ、夕日が。」
シホがイザークに微笑みかける。
「ん?ああ、そうだな」
イザークはちらりと夕日を見て、一瞬眩しそうに目を細めるが、すぐにまた厳しい顔をしてディアッカの方に向き直った。
「宿はもう用意できてるんだろうな?」
ディアッカはとても言いにくそうに言った。
「…いやぁ、実は、宿取れなかったんだよ…」
恐る恐るイザークの顔を見ると、青筋を立てながら物凄い形相で睨んでくる。
「いや、早く言わなきゃなーって思ってたんだけど…」
「ディアッカ貴様ぁーー!!!!」
「悪い悪い!でも宿なんてすぐに見つかるよな、な?シホちゃん。」
「俺に任せろなんて大見得切ったのは何処のどいつだっ!!」
「ホント悪かったって!!」
「ふん、まあいい。しょうがないから宿を探しに行くぞ。」
三人は暗くなり始めた道を歩き始めた。
街中に入ると周りはとても美しい外観の建物が並んでいた。
大きなホテルはなぜか何処も満杯で、イザークたちは困り果てた。
「お前がきちんとしていたらこんなことにはならなかったんだぞっ、ディアッカ!!」
「だから悪かったって言ってんじゃん!!」
「謝ってすむ問題か!!」
「だからホントごめんって!」
「謝り方に誠意が感じられん!」
「だーもう!ホント悪かったって!!」
「そもそもお前が…」
「あれ?あそこにホテルって看板掲げてありませんか?」
「なんだと?」
「マジで?!」
「ほら、あの小作りの可愛いお家…」
「た、確かに・・・」
「あそこ、行ってみようぜ!!」
近寄るとそこは小さな民宿だった。
「ここに泊まるのか?」
「野宿よりはましだろ?こんばんわー」
ディアッカはずかずかと中に入っていってしまった。
「隊長、しょうがないですよ、行きましょう。」
「ったく。しょうがないか。」
入るとディアッカが人の良さそうなおばさんと喋っていた。
「三人なんですけど、部屋、空いてますかね?」
「二つしか空いてないけど、いいかい?」
「いいよな?イザーク。」
「お前と相部屋なんて不本意だが、しょうがないか?」
「(俺だってごめんだぜ…)じゃあ、おばちゃんよろしく!!」
「んじゃ、これ鍵だから、階段登って突き当たりの右の部屋二つだかんね。」
「おっけー」
階段を上りきって薄暗い廊下を歩く。
「うひょー幽霊でそうだぜ…」
「余計なこと言うな!ディアッカ!!」
「あれ〜イザークちゃん、もしかして怖がってんの?」
「んな訳ないだろ!!」
「ホントかな〜?」
「ディアッカ、ほんとに殴られたいのか?」
「うわ、冗談だって!!」
本気で殴りかかりそうになっているイザークをディアッカは必死に止めた。
「9号室、私の部屋ここですね。ではまた明日。おやすみなさい。」
「あっれ〜イザーク、シホちゃんと一緒がいいんじゃない?」
「ふざけたこというな!!今度は本気で殴るぞ!!」
シホが悲しそうな顔をするのを見て、ディアッカはこれ以上イザークが何も言わないように急いで部屋に入った。
「冗談冗談!ごめんな、シホちゃん、おやすみぃ」
「ディアッカ!!」
嵐のごとく過ぎ去っていった二人をシホは呆然と見ていた。
「おやすみ、なさい。」
悲しげにもう閉まってしまったドアに向かって言う。
部屋に入ってベッドに寝転がりシホは今日あったことについて考えた。
(イザーク隊長、私のこと嫌いなのかな…でも、今日の隊長、変だったよね…)
隣の部屋ではイザークとディアッカがまだ口論していた。
「なあ、イザークいい加減にしろよ。シホちゃんのことも考えろよ!」
「うるさいっ!!お前に何が分かる!!」
「お前、この頃おかしいぞ?もう忘れろって!あの子はもういないんだ、何処にも…」
「うるさい、うるさい、うるさいっ!!!!お願いだ、もうかまわないでくれっ!」
イザークの目は少し潤んでいた。
「イザーク…」
「くそ、くそっ、くそぉ!!」
手当たり次第にディアッカの物を投げ散らかす。
興奮が収まり、少し静かになったイザークにディアッカは話しかけた。
「なあ、イザーク。」
イザークは下を向いたままでぴくりともしないがディアッカは構わずに話し続けた。
「お前がさ、そのフレイって子を助けられなくて責任感じてるのも分かるよ。」
「・・・」
「でもさ、お前が幸せになることをその子だって望んでるよ、きっと。」
「・・・」
「だから、もっと自分に正直に生きろよっ!」
「・・・」
「イザーク!」
「うるさい!もう寝るっ!!」
「ったく・・・」
イザークはディアッカに背を向けて寝転がった。
「あーあ、こんなに散らかしやがって…ったく。」
ディアッカがごそごそとイザークが投げ散らかした物を片付ける音がした。
すまん、ディアッカ。
もう分かりきってるんだ。
あいつが何を望んでいたか位。
でもこのまま忘れて生きていくことなんて、俺にはできない…