「隊長、隊長、」
傷があった頬を無意識に触りながらぼんやりと窓の外を見ていたイザークは、はっと振り向いた。
「ん?何だ?」
「あ、すいません、声かけてしまって…」
隣に座ってるシホを見ると、顔を赤らめて俯いてしまった。
「いや、かまわない。」
「…あの、地球の自然はやっぱりとても綺麗らしいですね。」
少し躊躇った後彼女は言った。
「ああ、そうらしいな。」
「やっぱりプラントのとは違うんでしょうね…」
「そうだな。」
イザークはまた窓の外を眺めた。
後ろでシホはこれ以上話しかけるのを諦め、眠りにつくことにしたようだ。
お前と一緒に来たかったな…フレイ
イザークは一人静かにだんだんと近付いて来る地球を見ていた。
彼らが地球行きのシャトルに乗っているのは、ヨーロッパでナチュラルとコーディネイターの
大事な会議が開かれ、その会議の下見をするためだ。
戦争が終結したといっても、まだナチュラルの間には根強くコーディネイター嫌いが残っているので、
イザークはコーディネイターだと分かりにくくするため、髪をスプレーで黒く染めていた。
ディアッカやシホは何もせずほぼそのままだ。
「おい、イザーク!」
イザークの後ろの席に座っているディアッカが背もたれに寄りかかりながら囁いてくる。
「何だ?」
「あの態度はないだろ?いくらなんでもシホちゃんが可哀想じゃんか。」
「うるさい、お前には関係ないだろっ!!」
「お前がまだ忘れてないことは知ってるよ。
でもさ、いつまでも引きずっててもしょうがないだろ?」
「ディアッカ、口が過ぎるぞ!!」
「ナチュラルを毛嫌いしてるお前にはナチュラルの子なんてさ…」
「ディアッカ、貴様ぁ!!」
イザークは青筋を立ててディアッカの方を振り向く。
「おー恐っ!!」
ディアッカは頭を引っ込めた。
イザークもまた腰を下ろす。
「でもさ、その子もいつまでもお前のことを縛っていたいとは思ってないんじゃないか?」
ポツリとディアッカが言う。
イザークは聞こえないフリをしてまた窓の外を眺めていた。
分かってるんだ、その位。
でも、忘れられない、染み付いてるんだあいつが…。
あいつ、あいつに、伝えたかったことがあるんだ…。
でも、もう…伝えられない…。
それぞれの気持ちを乗せて約束の地にシャトルは静かに進んでいく。