「ここは何処?」
フレイの回りには一面のお花畑が広がっていた。
「綺麗。でも誰もいないのね。」
「何時まで待ってるつもりなのだ、君は?」
誰もいないと思っていたのにいきなり後ろから声をかけられ驚いてフレイは振り向いた。
「だ、誰?」
振り向くと白い軍服を着て仮面を付けた男が立っている。
「彼はまだここには来ない。」
「彼って誰よ?」
「こんな所にずっと座ってないで君は私と共にこちらに来るんだ。」
「痛っ!いやよ!何すんの!!あんた一体誰よ?私はあんたと一緒になんて行かないわ!」
「しかし君も私と同罪だろう?」
「何言ってんのよ…一体私が何をしたって言うのよ!!」
「君は私の鍵となった。」
「鍵…?」
「そして君は沢山の人を殺した。」
「私が…人を殺した…?」
「そうだ。君は人を殺した。いや、その原因を作ったというべきかな。君のせいで一瞬で沢山の人が死んだのだよ。」
「う、嘘よ…そんなこと私が…私がする訳ないじゃない!」
「君も私と同じ所に行くんだ。」
「私が人を…」
呆然としてるフレイは腕を強く掴まれて無理矢理立たされた。
「さあ、来るんだ。」
そのままズルズルと引きずられる。
「や、やめて…!私は、私は…」
「君は人を殺した。」
「嫌ぁ…」
「君は人を殺した。」
「私が人を殺したなんて…」
「フレイ。」
懐かしい優しくて温かい声がする。
小さい頃から聞くと安心できた声が。
ああ、これはきっとパパの声。
「パパ…」
涙ぐんだ目で後ろに立っている人を見る。
「フレイ。」
「パパぁ!」
駆け寄ろうとするがガッチリと手を掴まれて動けない。
「これはこれは。そういえばお父さんにさよならを言わなければいけなかったね、フレイ。」
「離してよ!」
フレイは自分の手を頑強に掴んでいる手に噛み付き無理矢理剥がした。
「くっ。」
呻いた後仮面の男はすうっと消えた。
「パパぁ!」
「フレイ、こっちにも来ては駄目だ。」
「な、何で!?せっかくパパに会えたのに!!」
「お前のいるべき場所はここではない。」
「やだ!私パパと一緒にいたい!」
「お前には帰らなければならない場所がある。」
「そんなのない!パパと一緒にいる。」
「お前が何処にいても私はお前のことをいつも見守ってる。」
「パパぁ、やだよそんなの…私また一人ぼっち…」
「お前には友達がいるじゃないか。」
「友達…」
「それに彼も…」
フレイは父が小さく寂しそうにふっと微笑んだのを見た。
「えっ?彼?」
「私はお前が幸せになりさえすればいい。」
「パパ…ちょっと待ってよ!」
急速に周りの景色が過ぎ去り、父親の姿がどんどん見えなくなる。
「パパ、ちょっと、待って!」
どんなに手を伸ばしても届かない。
霧の向こうに消えて行ってしまう。
「嫌よ!待って、パパ!」
「行かないでーーー!」
フレイは自分の発した声ではっと目を覚ました。
流した涙で枕はびしょ濡れだ。
放心状態のまま天井を見上げると自分の腕が空を掴むように伸びていた。
天井に向けて伸ばしたまま固まった手を引っ込める。
「パパ…」
記憶を無くしてからこんなに具体的な夢を見るのは初めてだった。
今までは顔も声も全くといって言いほど破片も思い出せなかった、パパと言う存在。
自分を何処かに連れて行こうとした不気味な仮面を付けた男。
そしてパパが言っていた彼という存在。
「一体誰のこと…?」
寝汗で冷たくなった体をフレイは両手で強く抱きしめた。