イザークは外に出て少し会場の周りを歩いていると、なにやら騒がしい声が聞こえてくる。
ここら辺にも低俗な奴らはいるのだなと細い路地の方をちらっと見ると暗闇の中に突然鮮やかな紅が見えた。
「ちょっと、何するのよ!離してっ!!」
「良いじゃねぇか、少し付き合えよ」
いかにも柄の悪そうな三人の大男が下品な笑いを浮かべて小柄な少女を取り囲んでいた。
そして、そのうちの一人が彼女の手をつかんで無理やり連れて行こうとする。
「やだっ!離してっ!!だ、誰か、助けて!!」
「うるせぇな!これ以上騒ぐとどうなるかわかんねぇぞ!!」
男がすごむ。
イザークは後ろから声をかけた。
「嫌がってるんだから、手、離せよ。」
「何だと!!」
青筋を立てて男達は振り向いた。
こちらが一人だと知ると、とたんに下卑た笑いを浮かべ、その中の一人がイザークの方に近付いて来た。
「これはこれは、ナイト様のご登場ですか。痛い目に遭いたくなかったらさっさと家に帰って寝てな。」
「いいから、離せよ。」
「てめえ、やさしくしてやればつけあがりやがって!!いい気になってんじゃねぇよ!!」
一人が殴りかかってくる。
フレイは悲鳴を上げて顔を手で覆った。
しかし、イザークはひょいとその拳をよけると男のみぞおちに強烈な一撃を叩き込んだ。
「ぐえっ。」
男は白目をむいて倒れた。
「このやろう、ふざけんじゃねぇ!!」
もう一人の男も殴りかかってきたが、そちらも腕一本で黙らせた。
「さて、あと一人だな…どうだ、やるか?」
残った一人を睨みつけると、男は掴んでいた少女を突き飛ばし、ポケットからナイフを取り出した。
「このくそがぁーーー」
男は叫びながら切りかかってきた。
みぞおちに一発お見舞いしてやろうとしたが、敵も然る者、すっと避けられてしまった。
「ひゃははは、俺様はそん所そこらにいる奴とは違うんだよ!なんたってコーディネイターだからな!!
ナチュラルごときが俺様に勝とうったって百年早いんだよ!!」
「なるほど、コーディネイターの中にもこんな野蛮な失敗作がいるのだな…」
「あん?なんだとっ!!」
「悪いが貴様のような出来損ないのコーディネイターとはこれ以上話したくない。」
「すかしてんじゃんねぇよ!!」
男はまた切りかかってきた。
イザークはまたひょいと避け、今度は確実に男のみぞおちに一撃を叩き込んだ。
「怪我はないか?」
まだ腰を抜かして立てないでいる少女に手を差し出しながら聞いた。
「あ、ありがとう、助けてくれて。」
今度は素直にイザークの手につかまり立ち上がりながら少女は言った。
イザークは彼女のほうを向いて、
「いや、礼を言われる程の事ではない。それより、これ。」
とポケットにしまっていたハンカチを差し出した。
「わたしの・・・ハンカチ・・・・」
「あ、いや、返そうと思って・・・・」
「それだけの為に追いかけてきてくれたの?」
「ま、まあな。」
イザークは少女に見つめられて少し顔を赤らめそっぽを向いた。
「ほら、受け取れよ。」
イザークは顔を背けたままハンカチを突き出した。
「ありがとう。」
少女のまるで大輪の薔薇のような笑顔を横目でちらっと見て、イザークはさらに顔を赤らめた。
「それよりもお前、ホテルに帰るんだろ?俺が送っていってやる。」
フレイはきょとんとした顔でイザークを見つめた。
「いいわよ、そこまで迷惑かけられないし。」
「いや、帰り道また何かあったら後味悪いからな。」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。」
二人は再び大通りに出て歩き出した。