桜吹雪が舞い散る中、シンは家族と共に歩いていた。
「綺麗な所だろう?もう少し行くと海があるんだぞ。」
「昔よくここ二人で通ったわよね、お父さん。」
「ああ、そうだな。」
それを聞くや否やマユは駆け出して
「お兄ちゃーん!早く〜!!」
と手を振っている。
「おい、待てよ〜!」
「うふふふ。」
慌ててマユの後を追い走ると、急に視界が開けた。
「うわぁ〜。」
「本当綺麗。良かったね!お兄ちゃん!!」
「うん、綺麗だな。こんな街中にあるのに海が近いなんて最高だね。」
シンの家から学校への道の途中、海が見える道を通る。
ここはお気に入りの場所になりそうだな。
シンはそんなことを思った。
ふと下を向くと、砂浜で誰かくるくると回りながら歌っている人がいた。
顔は良く見えないが金髪の女の子だった。
「うふっ。ラーララ、ラララ、ラーララ。」
「ステラ?何してんだ?遅れるから早くしろ。」
いきなり大きな声が聞こえ、二人の少年がその少女に近づいていった。
「スティング。ステラ、ここにいる。」
「ステラ。」
「いいじゃんそんな奴、置いてっちゃおうぜ!」
「ほら、ステラ。また後で来るからもう行くぞっ。」
「ネオは?」
「あっちで待ってるから早くしよう、なっ?」
「うん。」
「全くこの馬鹿は世話が焼けるよな〜。」
二人の少年たちはその少女を連れてシンの視界から消えていった。
「シン、何してるんだ?もう行かなきゃ遅れるぞ。」
「お兄ちゃん、早くぅ〜」
「いっけね!」
先に歩き出した家族の後を追ってシンも慌てて歩き出した。
「お兄ちゃん、誰かいたの?」
「うん、ちょっとね。」
その海岸から10分程度歩いた所にシンの通うことになった高校は建っていた。
もう、新入生が集まっていて、入学式と書いた看板の前や、校門の前などで記念撮影している人たちもいた。
周りを見渡してると新入生らしき集団の中にシンはさっきの三人連れを見つけた。
あの人たちもこの高校に入学した人だったのか。
さっき、顔がよく見えなかった少女の顔も見ることができた。
すっげー可愛い。
その金髪の少女に見とれていると、後ろから肩をどんと叩かれた。
びっくりして振り向くと後ろにはにやにや笑いを浮かべたヨウランが立っていた。
「シン、どうしたのかなぁ?あの子の顔じろじろ見ちゃって。もしかしてタイプ?」
「じろじろなんて見てねぇよ!」
ヨウランとは幼馴染で親友だ。
「へぇぇ。あの子メチャクチャ可愛いじゃん。シンもお目が高いねぇ。」
「だから、見てないってば!」
「顔真っ赤にしちゃって〜」
「う、うるさいなぁ、もう!!」
二人でじゃれ合うように話していると、マイクが入り、新入生は校庭に並ぶよう指示された。
列を作って皆緊張した面持ちで講堂に入る。
シンの席は丁度真ん中の一番前の列だった。
隣はレイとルナマリアで彼女もシンの幼馴染だ。
「全く退屈よねぇ。」
「ほんとだよ。早く終わんないかなぁ。」
「・・・しっ、始まるぞ。」
その後は退屈な入学式だった。
入学式は長々しい校長の話から始まった。
次に新入生代表のレイが挨拶をし、皆で校歌を合唱した。
といっても新入生はただそれを聞いていただけだが。
最後に今までの静けさを吹き飛ばすような声が大音量で耳に飛び込んできた。
それまでただぼーっと話を聞いていた新入生の間には途端にぴりっとした空気が張り詰めた。
「お前ら全員起立っ!!」
新入生はびくっとして一斉に立ち上がった。
「生徒会長の話の前に副会長である俺からまず話したい!」
「何なんだってんだよ、一体」
「静かにしろっ、シン」
「ちぇっ。」
レイを見ていた視線を壇上のやけに色素の薄い美しい顔をした男の方に戻す。
「この学園に入ったからにはここの校則に従わなければならない。
すなわち、生徒会の決定は絶対で、それに従わない者はそれ相応の処罰を受けてもらう。」
「な、なんか怖そうじゃない?」
「なんであいつあんなに偉そうに。」
「シン、静かに。」
「へいへい。」
そしてその男はまだ熱弁を奮い続けていた。
「まあ、生徒会長様は甘いから誤魔化すことはできても俺の目は誤魔化せない。」
「何なんだよ?あいつ…」
「さあ…」
「最後に言っておくが俺の女に手を出しでもしたら唯じゃ済まさんからな。」
「結局はノロケかよ…」
他の新入生も唖然とした顔で壇上から去っていく彼の背中を見つめた。
次に申し訳なさそうな顔をした男が静かに出てきた。
「俺の名はアスラン・ザラ。現生徒会長だ。」
「あいつが生徒会長?マジかよ??あんな気弱そうな奴が???」
「シン、声が大きいぞ…」
シンだけではなく他の生徒もざわめいていた。
「あの人が?なんか本当に優しそうね〜」
「優しいってか気弱そうだもんな〜」
「確かに」
アスランの耳にもそんな喧騒が届いていたのだろうか、顔を真っ赤にしてまた喋り始めた。
「ごほごほ。今から一人一人の名を読み上げる。呼ばれたら返事をすること。」
「シン・アスカ」
いきなり呼ばれてシンは慌てて返事をした。
「は、はいっ!」
「声が小さいぃっ!!!」
突然脇のドアからさっきの副会長が出てきた。
よく見ると手には竹刀が握られていた。
新入生の顔が一気に青ざめた。
「もっと大きな声で返事をしろっ!」
「は、はいっ!!」
「次ぃ!」
「レイ・ザ・バレル」
「はい。」
落ち着いたレイの低い声は実はよく響く。
「次!」
「ルナマリア・ホーク」
「はいっ!」
その後は延々と名前を読み上げられ、時々奥の部屋に連れて行かれた奴もいた。
それはシンの幼馴染ヴィーノが呼ばれた時だった。
「ヴィーノ・デュプレ」
「は、はい。」
緊張しているせいか声が小さかった。
「声が小さいっ!!」
「は、はいっ!」
「まだ小さいっ!」
「は、はいっ!!」
「おい、お前ちょっとこっち来い。」
「え?」
「早く来い」
「は、はい。」
ヴィーノは項垂れながら奥の部屋に連れていかれた。
新入生は半ばパニック状態に陥りそうになっていた。
そして10分後泣きそうな顔をしながらヴィーノは帰ってきた。
新入生は恐ろしそうな顔をして副会長を見た。
会長もやれやれという顔で見ている。
「会長、続けてください。」
「では、次は…」
そしてシンが朝浜辺で見た少女の番になった。
「ステラ・ルーシェ」
「うん。」
おい、マジかよ!?
シンは驚いて後ろを振り返った。
皆も驚いてステラという少女の顔を見る。
副会長でさえ驚いて目を剥いた。
「ステラ、”うん”じゃなくて”はい”だろ?」
「ステラ、ちゃんと言えよ。」
慌てて両脇の二人がフォローに入る。
「は…い…?」
「声が小さい!」
「ほら、ステラ、もう一度!」
「はい」
皆の緊張が一斉に解けた。
「あのコ、すげぇな。」
「うん、凄すぎだよ」
その後は案外スムーズに終わり、これにて入学式は閉幕となった。
次に新入生は各自、クラス分けされた。
シンは幼馴染の面々と先ほどの三人組と同じクラスだった。
「あのコと一緒でよかったなぁ、シンちゃん!」
「う、うるさいなぁもう。」
しかも幸運なことに席が隣同士だった。
「うひょー至れり尽くせりじゃん!いいなぁシンは!!」
「ヨウランっ!」
「俺とヴィーノは前後だね。」
「またお前とかよー」
シンは席に着こうとしたがもう先客がいた。
「あの…」
「うん?」
「そこ、俺の席じゃ…」
先ほどの少女がちょこんとシンの座席に座っていた。
「君の席は、その隣…」
「ステラの席…」
「うん、隣だよ。」
「ん、そう。」
ステラは席を移った。
「君、名前、なんていうの?」
シンは話題づくりのためにもう知っているくせに名前を聞いた。
「名前はね、ステラ。」
「そっか、俺はシン。」
「シン。」
「これから、よろしくね。」
「うん。」
少女はにっこりと笑った。
か、可愛いなぁ本当。
少女のことをちらちらと見ていると、ふと背後に視線を感じた。
おそるおそる振り返るとヨウランとヴィーノがじーっとシンを見つめていた。
「いいなぁ、シンはぁ」
「ほんとほんと、ずるいよな〜」
「ははは…」
そんなこんなで、シン達の種学園高等学校での新しい日々は慌しく始まった。